論文の書き方(橋本ゼミ) [12/10/18修正]

 書くことは読まれることである。読むとは、書かれてある文章を解読することである。書くときには、読まれること、すなわち解読されることを想像しなければならない。

 読み手は書き手が期待するようには解読してくれない。よく理解してもらうためには、できるだけ親切に書かなければならない。

 文章にかならず解読作業が必要なら、すべての文章は暗号だと言える。通常の暗号には暗号表があって、その暗号表に従えば解読できる。だが、文章には暗号表がない。書き手の暗号表と、読み手の暗号表とが合わないことのほうが多いだろう。

 誤読を避けるためは、書き手は、暗号の解読の仕方を示しながら書いていかねばならない。それでも、読み手は、書き手の解読法を受け入れてくれるとは限らない。

 書き手は、読み手がかってな解読をしないように、暗号文のつながりを示していかなければならない。それは書く技術である。

 書く技術を発揮するには、なにより材料が必要である。材料は、字の集まり、文章、である。なんでもいいから書いて、材料をためておこう。単語でも、断片でも、一文でも、書きためるところから始めよう。

[急ぐ人は、1. 2. を飛ばして、3.へ]

1.題をつける
 何でもいいから、とりあえず題をつける。書き終えたら、内容をもっともよく表す題に直す。短くて、内容をうまく言い当てる、思わず読みたくなるキャッチーな言葉を選ぶ。

2.章の構成
 序論、1章、2章、3章、終章というようにテーマを分割する。章の題も必ずつける(題をつけておくと、自分は何が書きたいかがわかりやすい。読者のため、とは限らない。さらに分けるのに、節をつけてもよい)。
 序論には、なぜこんなテーマにしたのかを平易に書く。[序論は最後に書くといいだろう。]
 1章では、解決する問題を明確にする。例えば、選んだテーマについての研究史のようなものを書いて、自分の書く論文の位置づけをする。つまり、伝統の上に立って、こんなに素晴らしい問題を解くのだ、と自分の論文に値打ちをつける。
 2章では、1章の問題設定にあう現象、あるいは資料(データなど)を整理する。
 3章では、1章の問題と2章の資料を結びつける。
 終章は、全体のまとめで、問題の解決を論じる。

というような段取りで書けるとすばらしい。だがこうはいかない。

 章構成は書いているうちに変わる(最初は、あればよい、という程度)。最後に目次をつける。

3.書く
 何でもいいから、どこの章からでもいいから、書きやすいところから書く。考えて書かない。とりあえず、書く
 章の順番通りに書く必要はない。あとで並べ替えればよい。例えば、序論はすべて書き終わってから書く。全体を見渡せるよい序論になる。
 使った資料の著者、本や論文の題名、出版年、出版社(本だけ)、使った文章やデータののっているページ数は、メモのようにして下書きに書き込んでおく。後で調べるのは面倒である(見つからないことがよくある)。ホームページで探したデータは、「ホームページの題」http://****/を書き、アクセスした年月日(最終アクセス年月日)も書いておく。

 完成したときに、論文末に参考文献リストをつけるから、ここでメモをしっかりしておくと便利である。後で探せばいいと思っていると、泣きを見る。

 ここまでは、考えずに書く。思いついた言葉を並べる。その言葉を使って短い文章を書く。いくつも文章を書く。絵で言えば、スケッチをいくつも作る(落書きのようなもの)。脈絡なく、スケッチを貯めていく。貯まったスケッチを眺めていると、流れが見えてくる。すると、題も決まってくる。スケッチをグループにまとめれば章の題も決まる。

4.書き直し:書くというのはここから始まる。考えて書く。
1)文章
 ァ)文章は短く。長い文章は、出発点と終着点がつじつまが合わなくなる。それに、読みにくい(読み手は辛抱強くない)。

    長い文章に出会えば、必ず書き直す。


2)指示語
 ァ)指示語(それ、これ、その、この)は使わない。

 イ)たとえ使っても、一つの文章には一つの指示語だけ使う。
 「それ」を使えば、指示内容とセットにして。例)そのリンゴ→その赤いリンゴ

 ウ)指示語を他の言葉で言い換えてみる。言い換えてみて、指示語なしで文章を書けるなら指示語をやめる。

 エ)読み直して、一つの指示語を一つの文に言い直せないか考えてみよう。すべての指示語をチェックして言い換えてみる。

    指示語を見つけたら注意!ごまかしがある。


3)接続語
 ア)接続語(そして、であるから、それで、すると、しかし、だが)は使わない。使ったら、他の言葉で言い換えてみる。言い換えてみて、接続語なしで文章を書けるなら使わない。

 一つの接続語が一つの段落にならないか考えてみよう。


 イ)段落の書き始めに接続語は使わない。多くの場合、ごまかしになる。自分をごまかしていないか考えよう。段落の初めの接続語は、多くの場合、論理の飛躍をおこしている。

 読み手はごまかされないし、意地悪である。


 ウ)段落の途中の接続語は、新しい段落に変える場所かもしれない。


 一段落、一テーマの原則を確認しよう。


 エ)順接、逆接がはっきりと区別して使われているか確かめる。
「しかし」を、口調を整えるために使うことがある。論理のごまかしになっていないか考えよう。

 オ)読み直して、接続語を別の言葉で言い換えてみる。その接続語の内容が、一つの短い段落になるかもしれない。論理の飛躍を防げる。

    接続詞を見つけたら注意!論理の飛躍がある。


4)段落
 ア)段落は小さく。文章が短ければ段落も小さくなる。

 イ)段落の書き始めは、一字あける。

 ウ)段落の最初の文章(ヘッド・センテンス)が、その段落のテーマである。ヘッド・センテンスを説明すればその段落はおしまいである。新しい段落へ。ヘッド・センテンスの内容を越えることをその段落で書かない。「一段落、一テーマ」の原則。

 エ)文章の展開は段落でする。ウ)のルールを守れば、エ)は自然に行える。

 文章は段落で書く。文章は文で書くのではない。

   長い段落に出会ったら、小さい段落にならないか読み直す。


5)重複(リダンダント):重複は読み手をあきさせる。「読み手にわかりやすく」の原則。
 ア)言葉の重複を避ける。同じ言葉・語句を繰り返さない。同じ意味の違う言葉を使う。

  同義語辞典を使って、同じ意味で異なる言葉を探そう。


 イ)意味の重複を避ける。内容が同じ段落、文章、言葉を繰り返さない。

 ウ)音の重複を避ける。同じ音を繰り返さない。

 エ)リズムの重複を避ける。同じ長さの文章、主語-述語のセットが同じ構造の文章を繰り返さない。

 オ)同じ接続語が近くにないか、に注意する。

 カ)同じ指示語が(しかも別のものを指示している)近くにないか、に注意する。

 キ)同じ語尾が近くにないか、に注意する。

5.注
1)引用注
 直接引用:「社会は亀である」(橋本、23)。

 「」でくくった文章が直接引用である。「」があると、これには典拠があると読み手は考える。

 引用元(典拠)を示さないと、盗作になる。


 間接引用:橋本は、社会が亀であると言っている(橋本、23)、あるいは(橋本、p.23)とする。

「」はないが、あきらかに引用である。


 かっこ内の数字は、参考文献にのせた橋本の本(あるいは論文)の引用箇所のページ数(複数ページに渡るときは、23-24[pp. 23-24]とする)。

 どこかで調べただろう、とすぐに分かるような事実にはかならず引用注を付ける。

例:ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は、パーソンズが英訳するまで、アメリカには知られていなかった(橋本 1978、98)あるいは(橋本 1978、p.98)。


2)注釈注
 書いた文章に注釈をつけたいときは、文末に数字をうって、論文末(参考文献の前)に番号順に並べる。
例)
[本文]
…社会は亀である。1
[文末]

1.亀というとその対立物として兎を思い浮かべるが、社会の足が遅いと言う意味ではない。
2. …
3. …

3)長い引用:文中に長い引用をする場合には、引用文全体を3,4字下げる。最後に引用元の注を。

4) コメントをつける注

 ・・・社会は亀である、と橋本は言っている。1

1. 橋本の議論は、アキレスに従ったものであるが、私が調べた範囲で、アキレスが社会について議論した文献は残っていない。

2. ・・・。

3. ・・・。

6.参考文献
1)書物の場合は、書名に『』をつける。論文の場合は、論文の題名に「」をつけ、収められている本の書名、雑誌名に『』をつけ、論文の開始ページ番号と終了ページ番号を書く。雑誌の場合は、巻号の番号を忘れずに。


2)著者名のあいうえお順で文献を並べる。欧文の参考文献があれば、アルファベット順にする。著者名の次に出版年を書く。同じ著者に複数の文献があるときは、年代の古いものから並べる。同じ著者が同じ年に複数の出版物がある時は、出版年の次にa, b, cをうつ。単著を先にもってくる。

3)ホームページの引用は、ホームページの題のアイウエオ順(アルファベット順)で並べる。
 
例)
[文末 注釈注のあとに参考文献を]
芦田徹郎 1998 「神秘体験」『はじめて出会う社会学』有斐閣、145-59
----- 2001 『祭りと宗教の現代社会学』世界思想社

「神智学への案内」http://shinchi/intro.html(最終アクセス 2010年10月26日)

高木学 2000 「『離都向村』の社会学--Iターンに見る過疎地域と都市の相互作用--」『ソシオロジ』44:3 3-20
橋本満 1994 『物語としての「家」』行路社
橋本満・伊藤公雄編 1998 『はじめて出会う社会学:社会学はカルチャー・スタディ』有斐閣

7.完成
1)何しろ、最後まで書く。
 支離滅裂だと思っても、書き終える。ここからが、書くことの始まり。

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2)読み返す
 三回は読み返す。読み返していると、矛盾している箇所を書き直したくなる。全体の一貫性を保つための、最後の大仕事である。

 指示語、接続語は注意マーク、長い段落にも注意

 抽象的な表現には、かならず具体的な表現をつける。書き手のイメージを、読み手は共有してくれない。

3)図表に番号を
 図や表は、本文で使うところに入れる。図、表それぞれに番号をうつ。
 既存の図や表を使うときは、原典を図表のすぐ下に書いておく。
4)全体にページ番号をつける。
 目次は別ページ番号
5)表紙をつける。
 題と名前

 目次をつくる。各章の開始ページをいれる。


 完成!でも、もう一度読み直してみよう

中級編

1. ・・・でなく、しかし・・・。

 英語の構文、not ..., but ....である。「・・・だでなく、」で定説あるいは批判する対象の議論を紹介して、「・・・である。」で自分の主張を書く。主張したい内容を二度書ける。標的にしている議論が明確になる。

2.1.の応用

 段落の書き始めには、しかし、しかしながら、という逆接の接続語を使うのは望ましくない。だが、not...を前の段落でやって、改行した後にbutをもってくる。段落の書き始めに、あまり使わないはずの「しかし」があると、インパクトが強くなる。

 順接の接続語も、段落の冒頭にもってくると、さらに、まだあるのか、というインパクトを与えることができる。ただし、頻発しないこと。

上級編

1.文章をわざと難しく書く。

 文章は、平易に簡潔に書くのが基本であるが、ここぞと主張したいときには、わざと難しく書く。読み手は突然に現れた難解な文章に戸惑って二回は読んでくれる。

2.紙面が暗くならないように、漢字の数、段落の長さを調整する。