栄養の力を信じて

「食」で救える人が、もっといるはず。

バランスの取れた美味しい食事は病気を予防し治療にもつながりその知見は医療現場からも必要とされています。そんな「栄養の力を信じて」誰かの役に立ちたいと管理栄養士を志したエピソードを紹介します。

食物アレルギーの私のために、母が工夫してくれたあの日の思い出。

小さい頃、卵アレルギーがあった。
プリンも、オムライスも、マヨネーズも食べられない。
そんな私のために、母が毎日忙しい中、除去食や代替食を工夫してくれた。
マヨネーズは卵を使わずに手づくり。オムライスを包む卵は、じゃがいもとかぼちゃのペーストに片栗粉を混ぜて、薄く焼いてそれらしく。
みんなと同じようにオムライスを食べられた日のうれしさは、今も忘れられない。

おかげでアレルギーは 克服できたけれど。
あの頃のおいしく食べられたよろこびを思い出すたび、食と健康についてもっと知りたい、という思いがどんどんふくらんできた。

「私、管理栄養士になる」
「お母さんがしてくれたように、みんなに食事を楽しんでほしい」

家族にそう言ったら、母は何度もうなずいて、涙ぐんでいた。

除去食:アレルギー症状を起こす食材を使用せずにつくる食事。
代替食:アレルギー症状を起こす食材に代えて、別の食材を用いてつくる食事。

食欲のないおじいちゃんに、病院の方々がかけてくれた魔法。

中学生のとき、大好きな祖父ががんに。
学校帰りに、病院に立ち寄ることが私の日課になった。
「おじいちゃんの好きなお魚!」なのに
食事に手をつけず、私に「食べていいよ」と言う。
どんなときも私を守ってくれたおじいちゃんが、どんどん小さくなっていく。

病院に行くのが少し遅くなったある日、祖父のベッドサイドに初めて見る医療スタッフの方がいて祖父の前にある夕食のトレイは、空っぽになっていた。

おじいちゃんに、どんな魔法をかけたの。

その方は、管理栄養士さんだった。
食欲が落ちている祖父のために、大好きな魚を飲み込みやすいムース食にしたり、バランス良く栄養が摂れるゼリーや果物など、いろいろと試してくださっていた。

がんとたたかう身体を保つには、栄養を摂ることは不可欠。
管理栄養士さんがアレンジしてくださった病院食は祖父に
“食べるよろこび”をも与えてくれ、身体だけじゃなく、心も元気にしてくれた。

「おいしかった」と言う祖父の笑顔と、
管理栄養士さんの一言が、私の将来を決めた。
「食べることは、生きることなんですよ」

食べることが大好きでしあわせ。そんな私に、父からの一言。

「そろそろ進路を考えていかないとね」と、先生に言われたのは高一の終わり。
でも、自分の得意なこと、向いていることって、よくわからない。

人の役に立ちたいという思いがあるから、医療関係の仕事に憧れるけど文系の私にはどんな医療職があるのだろう・・・。

おやつをほお張りながら悩んでいる私に、父がニヤッとして言った。
「自分の好きなことから考えてみたら? ほら、食べることとか!」
確かに、私は食べることが大好き。しあわせを感じる。これは一生続くだろう。

そして「食」をキーワードにいろいろ調べていくと、ある職業が目にとまった。

医療現場で活躍する管理栄養士。

医療への興味と、食べることが好きな
私の思いをかけ合わせた職業。
私の天職になるかもしれない。
見ててよ、お父さん。